子供が背中に背負うもの

 

ランドセルに決まってる・・・???いえいえ、違う話です。

 

私がアレクサンダー・テクニックを活用するのは、音楽のレッスンです。背中が反り返っている場合。

肩が上がっている場合。腕の力を抜くために・・・さまざまです。歌のレッスンには、きりがありません。

 

ピアノのレッスンで肩があがっていたり、力が入っているのはよくあること。ピアノを初めて弾く子供たちも同じです。今まで触ったことのないものですから、当たり前のこととも言えるでしょうが。6歳、7歳、早く始めればピアノがうまくなるとは限らない・・・指の回り方は、とても個人差があります。

 

とはいえ。

 

小学生の肩に触れるとき、ちょっと気になることがあるんです。

この小さな肩に、もしかしたら、すでに重荷がのっかかっているのではないか・・・と。

私の担当クラスは楽しみのためのピアノで、競争の雰囲気はかけらもありませんから、そのプレッシャーのことではありません。

 

私の両手を静かにおいて、私も、自分の静かさを待ちます。私ののせている手に力が入っていたら、ただ重いだけで、意味がないのです。(その場合、私も、手に感ずることがよくわからないのです)だから、先に集中するのは生徒の肩ではなく、私の手・腕・肩・背中・腰・足・首・頭の力の具合です。(要は・・・全身です。)

大げさに聞こえますが、こうして、こちらが手の力を抜いた状態になると、あるとき、子供の肩が、ふっとさがるときがあります。

 

また、子供たちも面白がるけれど、その割りにうまくいかないものとして、「腕落とし」があります。

片手を私が胴体に対して垂直に持ちあげ、その腕が、脱力し、抵抗なく落っこちるのかどうかをみます。

腕の力を抜いて、と口で繰り返すより、子供も体でわかることでしょう。

この場合も、子供の腕の手首部分を支え、まず私自身を“整え”ます。私自身に力が入っていたら、子供の腕は重くもなんともありません。でも、いつか、子供の腕の力が抜けると・・・おやおや、重いこと重いこと!

うまくいけば、こちらの手を離したとたんに、ばたり、と自然に胴体に向かって、重力につられて腕が降ります。しかしこれがなかなかうまくいかないんだな。しかし、腕がぜんぜん動かないことが、結構あります。力が抜け切れていない証拠です。力が少しずつ抜けてくると、落ち始めのタイミングがよくなります。まったく力が抜けてきたら、腕は即座におります。あとは、それをピアノに応用できればいいんですが・・・でもこれで、「腕の力を抜いて」が、抽象的なことではなく、具体的なものになっていきます。

 

「子供が腕に重みをかけてくる」つまり、押し付けてくることがあります。腕の力が入っていてこちらにはまったく重さを感じないので「アレ、鳥みたいに軽いよ」というと、ぐっと、力を下に向けてかけてきてしまいます。

そうすると、こちらに伝わってきますから、「それは君が押してるんでしょ?」と、やり直しです。

 

あっちとこっち、いったりきたり。そのくりかえしです。

 

大人なら、「仕事が忙しくって」だの、学生も「勉強が大変でつい姿勢が悪くって」・・・などと、言い訳があります。

でも、どうして、こんな小さな子供たちの肩が硬いのだろう。

いったいいつから、子供の方は硬くなり、腕は固定されてしまうのだろう。

こんな小さくても社会を背負っているの?何がプレッシャーなの・・・???

 

幼児のときはあんなにはつらつとし、アレクサンダー・テクニックのお手本のような子供たち。

母親に抱っこされていながら、体をそり返したりしている1歳児、2歳児は、ゴムのように柔らかでありながら、上半身がきちんとその腰にのっかっているから、あんな危険な「アクロバット」の動きもできるのです。

それはお母さんがきちんと支えてくれていることを知っているからでも、あります。信頼できるパートナーがいてこそのアクロバットです。

 

3歳前の幼児とお友達になってみてください。その子が喜んでかけてきます。

そのときは、本気で全身で、ぶつかってきます。

体が柔らかいだけではなく、あなたへの信用があるからです。

そんな安心できる環境にいない子供は、赤ん坊のときに、すでに、悲劇の中にいます。戦渦の子供たちがそうです。

 

腕は、肩から突き出しているものではありません。からだの中心から始まっています。胸の上のほうに手のひらを当てて、腕を開いてみてください。骨の動きがわかります。肩の動きもそうです。筋肉は背骨につながっています。その背中は腰につながっています。

 

幼時に何が起こるのか。きっと、本人にもわからないのでしょうね。私たちは、そんな社会に生きています。

腕の重い子供が、背中の硬い子供が少しでも減ることを願うばかりです。

 

2006年夏

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